【ノケモノと花嫁】愛された記憶とそれを求める子供達の物語
ノケモノと花嫁についての考察です。
あくまで一読者の考えです。
ネタバレを大量に含みます。
ネタバレ注意
有栖川の正体は不思議の国のアリス人形。イタルとヒツジの正体は?
KERA12月号を読んで以来、「もしかしたらイタルとヒツジも人形なのでは?」
という考えに取りつかれています。
ヒツジという女の子が、イタル似のクマとヒツジ似の人形を、作っていたことは31話で既に語られていたました(2巻P158以降参照)。
しかし物語との繋がりが分からなかったため、その時は考えるのを保留にしていました。
しかし、12月号によって次のことが示されました。
- アリスが元は人形だったこと。
- その人形は件の女の子が作ったと思われること。
- ギンの過去編が全て夢の中の虚構であったこと。
これにより、空白だった物語のかけら同士が組み合い、一つの仮説が生まれてしまったのです。
それは、二人のカケオチ物語は、人間の女の子が「お人形さんごっこ」をして遊んでいる空想世界ではないか。女の子が人形に話りかける物語こそがノケモノと花嫁の世界ではないか・・・というものです。
裁縫の得意な人間の女の子。その名もヒツジ!?
まず、1話から31話に登場するヒツジとイタルが元は人形とぬいぐるみだったこと、それを作ったのがヒツジという名の女の子であることは間違いないと思います。
それは「Runaway:31約束」で語られます。
彼女は母親との会話の中で、クマのぬいぐるみとお嫁さんのお人形さんについて話しています。
ママ「あなたは本当にお裁縫が上手ね。あらお人形さんなの?クマさんのおヨメさんなのに女の子なのね。」
ヒツジ「ふふ。この子は私。ヒツジちゃんよ。2人は結婚するのよ。」
人間のヒツジが、クマのぬいぐるみと人形のヒツジを作り、2人を結婚させたのです。
しかしここで疑問が残ります。人間のヒツジが人形を作ったは良いとして、1話~31話で人形の2人は、なぜ「カケオチ」をしているのでしょうか?
ヒツジの結婚と幸せへの願い。彼女を逃避へと追いやるものは何か。
「幸せになるの 世界一私を愛してくれる あなたと結婚して 世界一幸せな花嫁になるの キスして目をつむるから ずっとずっと つむっているから」(Runaway1冒頭)
まるで眠りに落ちる自分に、語りかけるかのような独白で始まった第1話。
いま思うと、現実の暮らしから遠く離れて、愛の逃避行の空想にふける女の子が願望を語る言葉のようにも読み取れます。
ヒツジはなぜ逃げなければならないのでしょうか。
彼女を追いかけている世羅晶午について考えてみましょう。
世羅晶午は娘のヒツジを虐待していると思われます(1巻P67・2巻P161)。
虐待の詳細は明らかにされていません。
しかしその歪んだ愛情によって彼女が苦しんでいたことはたしかでしょう。
逃避行をする理由。
独断と思い込みが入りますが、それは人間のヒツジが「もう一人の自分である人形のヒツジが幸せになる物語」を語ることで、傷ついた心を癒しているのではないかと思うのです。
現実のヒツジは、父親に傷つけられています。
しかし、「人形のヒツジちゃん」は「世界一愛してくれる」イタルと結ばれて「世界一幸せな花嫁」になります。
もう一人の私である「ヒツジちゃん」が幸せになる物語を紡ぐことで、人間のヒツジは自らの傷をいやし、愛情を再構築しているのではないでしょうか。
それは、現実には一歩も家の外に出られなかった兎河ギンが、架空の世界では、王子様としてお屋敷で女優の母とメイドと共に暮らしていたことと同じです。
現実には愛情を与えられなかった少年少女が、空想の中で、もう一人の自分を愛し、愛された記憶を蘇らせるという構造がノケモノと花嫁にはあるのではないでしょうか。
愛された記憶により人は自分を肯定し、他人を愛するといいます。
親に愛を与えられなかった(と考える)子供が、人形を通じて、自分が愛する側になることにより、自分を肯定していく物語。
考え過ぎかもしれませんが、これがノケモノと花嫁のメインテーマのようにも思います。
今後の展開について考える
31話は父親の悪夢から目覚めたヒツジが、イタルと結婚の約束を確認して終わりました。
1話から続いたカケオチ物語はここで一旦中断し、そのあとはトナカイの処刑、ギンの過去編が語られました。
12月号でその過去編も終わったわけですが、久しぶりに紙面に戻ってきたヒツジは衣装も変わっており、幸せいっぱいの表情をしています。
次号以降、2人は無事に結婚式を挙げられるのでしょうか。