「小林七郎展」空気と空間を描くということ
杉並アニメーションミュージアムで開催中の「小林七郎展-空気を描く美術-」に行って来ました。
『アニメーション美術監督 小林七郎展 -空気を描く美術-』
http://www.sam.or.jp/kikaku.php
テレビアニメ草創期からアニメーション美術のトップランナーであり続けた小林七郎氏の背景美術展。
【展示内容】
1.小林七郎氏プロフィール・作品リスト
2.小林七郎氏が関わったアニメ作品の背景美術の展示
のだめカンタービレ巴里編、探偵オペラ ミルキィホームズ 他
3.関連作品の映像の展示(モニター上映)
4.映像絵本『赤いろうそくと人魚』原画・映像展示
【上映予定作品】
小林七郎さんについて
1932年生まれ。アニメーション美術家。「少女革命ウテナ」で美術監督を務める。60年代からアニメの美術に関わり、「ガンバの冒険」「家なき子」「宝島」「タッチ」「カリオストロの城」「天使の卵」「ベルセルク」「のだめカンタービレ巴里編」などの作品がある。
小林七郎さんは、幾原監督関連では「少女革命ウテナ(TV・映画)」「青い花」「のだめカンタービレ」の美術監督をされています。
輪るピングドラム美術監督の秋山健太郎さんと中村千恵子さんも小林プロのご出身ですし、男鹿和雄、大野広司、小倉宏昌といったビッグネームも小林さんのお弟子さんです。
幾原監督は小林七郎さんとの出会いをつぎのように語っています。
―監督が小林さんと知り合ったきっかけというのは?
幾原「『ウテナ』が初めて。」
―それは、監督の方から?
幾原「最初は全然決まってなかったの、TVの時は。で、ジェー・シー・スタッフから「どうしますか?」って言われた時も、小林さんの名前は全然考えていなかった。受けてくれるはずないと思ってたし。ただ、ジェー・シーが小林さんとちょっとつながりがあって、候補として名前が挙がってて。その時はジェー・シーもまさか僕が「小林さん」って言うとは思わなかったと思うんだけど。でも小林さんがもしやってくれるんだったら、是非って。」
(「アート・オブ・ウテナ」1999,P26)
小林七郎さんはTV版ウテナの終了後の1999年、劇場版ウテナにおいても美術監督を務められました。
今回の展示会では、その劇場版の展示がされています。
ウテナの展示物
ウテナのコーナーは企画展のフロアの一番奥にありました。
横のモニターには劇ウテの予告編が流れています。
展示されている美術ボードは、ガラスケースの中に6点、壁に12点の合計18点。
実際のフィルムに使われたという手書きの画と、イメージボード等がありました。
画集などで見ていたウテナの背景美術ですが、実際の大きさはA5くらいで、想像していたよりかなり小さく感じました。
荒々しく大胆な筆使いと紙の凹凸の上に乗せられた顔料。
かすれ具合や、微細なタッチは、実際に人の手によって描かれたものであることがわかり、リアルな息遣いが伝わってきます。
それは、普段映像として見慣れている画面のものとは全く違う、紙の上の画でした。
学芸員さんのお話では、これにガラスを重ねてスキャンして加工すると、私たちの目にするフィルムの質感になるのだとか。
画家はスクリーンに上映される映像を考えて、目に見えないその絵をキャンバスにむかって描かなければいけないわけです。
ポスターカラーの経年変化による部分を差し引いても、フィルムと創作過程の背景画との差異は大きく、改めてアニメーションという人の手により創作される視覚表現の奥深さに驚きました。
アニメの背景画作りについてアートオブウテナの中で小林七郎さんは次のように語っています。
小林「私のところの仕事はひどく荒っぽくて、『これで完成したの?』って言われるくらい荒いですよ。」
幾原「小林さんのはね、フィルムにするとすごいんですよ。背景だけみせられると、わからないことはままあるんだよ。『何だろう?いいのかな、これで?ま、撮ってみよう』って撮ってみると『あ、こういうことか!すごい!』って。」
小林「空間を描いているんですよ。空間を説明するためのディテールなんですよ。ところが、ディテール一個一個を説明するために必死になってそれに終始すると、空間がべたーっとつぶれたようになるから、フィルム化した時に際立たない。のっぺらぼうですね。それから、必ず『ここを見せるんだ』という意図を持ってやらないと。全部平均的画面を隅から隅まで小さい目で埋め尽くすようじゃだめですね。絵として生きていない。だから、私の教えるのは、でかい目玉と小さい目玉の二つの目を柔軟に使うこと。ところが小さい目だけでしらみつぶしに描く、という傾向がありますね。単なる説明。そうじゃなくて、いろんなディティールを用途ごとに使うという空間表現なんですよ。「どんな空間か?」ってことなんです。空間って、つかめないでしょ。意識するものであってね。「絵が上手に描けました」っていう、そんな次元じゃないんですよ。」
(「アート・オブ・ウテナ」P27)
まさにこのインタビューのとおりで驚きました。
小林さんは目の前の紙ではなく、スクリーンに映し出される「空間と空気」をキャンバスとして絵を描いているのでしょう。
この大きい目と小さい目や、空間についての話は、生の背景画を見るととてもよく理解できますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。
アドゥレセンスを見てから行ったり、ウテナの背景画が掲載されている本を持っていくと、実物の原画との比較ができて楽しめるかもしれません。
アニメシアター
アニメシアターのウテナは、TV版の1話2話を上映していました。
上映時間は毎日変わるようですのでHPでご確認ください。
この日はリマスター前のDVDが上映されていたように思います。
感想
始まって最初の週末だったのですが、お客さんの入りは少なめでした。そのためウテナの背景画を思う存分堪能することができました。
学芸員の方も親切で、質問にも丁寧に答えていただけました。
2月11日(月・祝)には特別イベントもあるらしいので、再訪してみようと思っています。
こんな充実した施設がある杉並区民の人が羨ましく思いました。