101%メモ

幾原邦彦作品等について語るブログ

【感想】中村明日美子「君曜日 鉄道少女漫画2」 読むと機関車に乗りたくなる恋物語

中村明日美子先生の新刊「君曜日 鉄道少女漫画2」が発売になりました。

鉄道周辺のあれこれを舞台に展開するコミックス「鉄道少女漫画」。

同書に収録された「木曜日のサバラン」からスピンアウトしたアコちゃんと小平くんのお話しがコミックスに!!

 中学生男女のピュアな恋物語であり、心の揺れ動きがリアルな傑作だと思います。

「読むと電車に乗りたくなる」のキャッチフレーズ通り、秩父の蒸気機関車に乗りにゆきたくなりました。 

君曜日 ─鉄道少女漫画2─ (書籍扱い楽園コミックス)

■前作「木曜日のサバラン」あらすじ

結婚七年目の男がある日見つけた密かな愉しみ。

それは木曜日に洋菓子屋の奥で開催される鉄道模型の会だった。

そこでは、参加者達は互いに決して言葉を交わすことはなく、ただ車輪の軋ませるレールの音だけが静寂を支配する美しい世界だった。

ある日、それまで常連だったヒゲの紳士が姿を消し、代わりに女子中学生の倉木亜子が紳士の席に座るようになる。やがて旦那の行動を不審に思った妻は、洋菓子店に乗り込んでいき…。

 

前作では会社員の男とその妻の物語が描かれ、アコは謎の少女という位置づけでした。今回はそのアコと、小平という彼女と同じ塾に通う男子が主役となります。

木曜日に開催されてる鉄道模型の集まりは、秘密クラブ的な妖しい雰囲気があり好きだったのですが、今回のシリーズではあまり登場しません。

 

■明日美子先生の描く女の子の可愛らしさ

明日美子先生の描く女の子はいつも可愛らしいのですが、アコも透明感のある爽やかな女の子でした。彼女の心の動きとリアクションの清々しさが、この作品の最大の魅力だと思います。

 

■空気の読めない男・小平

小平はアコに好かれたくて、彼女の気を引こうと話しかけるわけですが、距離感をつかめず常にアコを困惑させます。彼女の繊細さに焦点をあわせられないのが序盤の小平です。

例えば、「アコ」と名前で読んだり、「お前」呼ばわりしてしまいます。それがアコは嫌なわけです。

お前…お前と名前呼び捨て どっちがいやかな …どっちもいや

どっちが「より嫌か」が検討され、しかも結論は「どちらも嫌」という希望のないもの。 

この男子中学生らしい小平の空回り具合もこの作品の魅力です。

 f:id:yuuki101Percent:20130206210650j:plain

 小平はアコが会社員の男と一緒にいるときに「不倫!?」と叫んでしまったり、彼女の同級生のミサを悪く言ってしまうなど、残念なところが目に付きます。

決定的なのが、小平に片思いをしている女生徒(持田華絵)が登場するシーンです。華絵から小平に対する恋心を聞いた後、アコは「付き合ってないから」という理由で小平と距離を取ろうとします。そこであまりにも簡単に「つきあっちゃう?」と言ってのける小平。華絵の恋が一瞬で終わったことと、小平のあまりの能天気さに、アコは泣き崩れ、そのあと5日間風邪で学校と塾を休みます。

  

しかし小平は悪い男ではないのです。むしろ中学生の男の子らしいピュアさと芯の強さがあります。

たとえば、不意にアコの携帯の待ち受け画面(会社員の男の写真になっている)を目にしてしまった時、内心傷ついているハズですが、それで心が折れることはありません。そっと気づかない振りをします。

またアコがうっかりとお金を払わずにキーホルダーを持ち帰ってしまうシーン。「じゃソレ俺にちょうだい。俺が万引きした事にすればいい」と、とっさにアコの罪を肩代わりしてしまいます。

アコのお母さんが作ったおにぎりを食べるシーンでは、「自分は食べない」というアコに対し、「なんだよ食えよ。かーちゃんアコのために握ったんだからさ」と言い、人の気持ちに配慮ができることも垣間見えます。

能天気さの裏腹に、ピュアで打算がない小平の良さがだんだんと伝わってきます。

 

校門前でアコを待つシーンは、「倉木さん」とさんづけで呼ぶところも含めて爽やかで好きなシーンです。

 

■会社員の夫婦

前作「サバラン」の主役であり、アコに片思いをされる会社員の男(名前不明)。

なぜアコが彼に興味をもったのかは謎ですが、鉄道を嬉しそうに眺める姿と、妻と娘を大事にする姿に、理想の恋人像を見出していたのではないかと思います。(アコはどうやら鉄道好き。)

彼は学生時代からの恋愛結婚を実らせたわけですが、彼がセーラー服の向こうに見ていたのは、妻だったことが判明します(アコには興味はなかった)。あの愛妻家の夫と妻の姿は小平とアコの将来を暗示しているのかもしれません。

 

■さらなるスピンオフは!?

この作品は一応完結してるのですが、さらなる続編が読みたい気がします。持田華絵や、みさっちんと正太郎君の話などなど。巻末の楽園の告知ページには「アコちゃんと小平くん、ふたりの『その後』のお話はこちらですよ。」とあり、再登場がありそうなので期待してしまいます。

f:id:yuuki101Percent:20130206174309j:plain

カバーを外すと、塗りのタッチの違う表紙絵が出てきます。こっちも良い感じ。

 

■蒸気機関車C58363

「金曜日の遠足」でアコと小平が秩父で乗る蒸気機関車C58(シゴハチ)。

秩父鉄道パレオエクスプレスとして実在するようです。

平成25年度は3月20日より土日を中心に110回程度の運行予定だとか。

http://www.chichibu-railway.co.jp/paleo/index.html

アコと小平の記念品となった「C58363」のプレートも販売されているようです。

乗りに行きたくなりますね。