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幾原邦彦作品等について語るブログ

『SとMの世界』 2巻特別付録 『Sの書( Le Livre de "S" )』

先日のシネクイントで開催された『J・A・シーザー×幾原邦彦トークショー』。会場でお会いしたあるお方に『Sの書』をプレゼントして頂きました。

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『Sの書』とは『SとMの世界』2巻(限定版)の特別付録だったもの。文・イラスト/幾原邦彦

SとMの世界とは

概要少女革命ウテナ(1997-1999)のさいとうちほ×ビーパパスによる漫画作品。2001年から2003年にかけて「少女帝国」「CIEL増刊」「月刊ASUKA増刊」等に掲載された。

あらすじ:17才の女子高生である舞姫セカイは、修学旅行中にフランスで列車事故に遭遇し、気づいたときには金髪の少年ソヴュールと17世紀にタイムトラベルしていた。クラスメートの御堂にそっくりなマキャヴァリオ、青髭公ジル・ド・レエの手が彼女に迫る。果たしてセカイは現代の日本に帰ることができるのであろうか。

SとMの書:万能の力をもっていたとされる書物。かつて魔王Rはこの書物から万能の力を得ていたという。しかし恐れを知らぬ若者によって盗み出され、Sという少女の人形とMという少年の人形に分かれてしまった。  

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『Sの書』とは

本書は主に「僕」が「親愛なるM」に対して日記を書き連ねるという形式になっています。その書き出しは次のようなものです。

自分を残すってこと

親愛なるMへ。今日は素晴らしい日だ。先生からまっさらな紙の束をもらったんだ。こんなにたくさんの紙の束を見たのは初めてだ。お母さんからの手紙だって、一枚ずつしかないしね。これでお母さんへ手紙を書く紙にも不自由しない。それだけじゃない。書くってことは自分を残すってこと、歴史を残すってことだよ(僕が歴史だなんて!)。とても意味深いことだよ。だから僕は今日から日記を付けることにするよ。見出しには君の名を書いてみた。君は気になる存在なんだ。

脚注によると、「僕」は選ばれた子供であり、「校舎」で歴史の創造方法を学んでいるようです。この世界では歴史とは過去を意味せず、いくつかの「可能性未来」のことだとか。

どうやら「僕」のいる世界と、舞姫セカイやソヴュールが居る世界は別のようです。「僕」とは創造主のような存在であり、彼が書いた日記の中に舞姫達が旅をする世界があるのかもしれません。

世界は復活した

親愛なるMへ。ようやく霧が晴れた。窓の外には森の木々。空は小鳥たちが、木々の間には小さな動物たちの影が見える。世界が動き出した。僕の想像力の勝利だ。僕ではない誰かは、僕の想像力に負けたんだ。僕の想像力で、この世界は復活したのさ。先生にそのことを言うと、しばらく考えて、そうかもしれないって言ったよ。想像力が全てのことにおいて重要だ。想像して、想像して、もっともっと想像して、決して誰かの想像に飲み込まれちゃいけないんだ。 

 想像力によって復活する世界。「僕」は世界を動かす力があるようです。先生といえば、金髪の少年ソヴュールにはかつて先生いて、その先生はマキャヴァリオに殺されたようです(1巻p55)。

ソヴュール:マキャヴァリオ!この悪魔!

マキャヴァリオ:久しぶりだなソヴュール。何年ぶり、いや何百年ぶりというべきか。我らふたりには時間など関係ないのだからな。元気そうだ。あいからわずチビのままだが。

ソヴュール:ボクは…先生の仇であるお前を一瞬たりとも忘れたことはない

マキャヴァリオ:悪いのはお前の先生のほうだよ。ソヴュール。あれが私の大切な「S」を盗んだから返してもらいに行っただけだ。

『Sの書』における「僕」とはソヴュールのことであり、親愛なるMとはマキャヴァリオのことなのでしょうか。しかし日記に記されている「僕」の口調は少年ソヴュールよりもずっと大人でクールな性格のようであり別人である気がします。

君に出会えてよかった

親愛なるMへ。今日、僕の心は二度、死にそうになった。一度目は、僕の大切なあの人形を、僕がうっかり崖の中腹に落としたとき。二度目は、それを取り戻すために、君が僕の目の前で崖をはい降りたとき。君はいくつも擦り傷をつくって僕の人形を取り戻してくれた。ようやく僕は理解したよ、僕にとっても大切なものが何かってことを。僕は君に出会えてよかった。

「僕」の居る世界にも人形は存在し、Mと僕は良好な関係を保っていたようです。

残された謎

主人公の舞姫セカイはタイムスリップをするとき、「時間と空間を超える者」の声を聞きます(1巻p19,87)。その者は「時間と空間の外側に広がるより広大な世界を知りうる者」です。その者こそ『Sの書』の作者である「僕」ではないかと思うのですが、残念ながらそこから先はわかりません。

『SとMの世界』は第4話「青髭公の福音」の後日談は描かれなかったようです。『Sの書』が2巻に付録として収録されたのは未完部分の物語を補完する意図があったのかもしれません。

輪るピングドラムのボツ企画に、「歴史上に登場する中世の魔女にフランス人形が変身するお話し」があったそうです(輪るピングドラム試運転マニュアル「幾原邦彦×星野リリィ特別対談」)。もしかすると幾原監督のなかでは「SとMの世界」のような中世フランスを舞台にした人形のお話しというモチーフはまだ残っているのかもしれません。将来的に何らかの形で見れる日がくるのでしょうか。

「SとMの世界」については掲載当時の雑誌に何か情報があるかもしれないので、そのうち入手して読んでみようと思います。