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幾原邦彦作品等について語るブログ

演劇実験室◎万有引力『2013年版 SUNA 』観劇レポ

一週間前のことになりますが、演劇実験室◎万有引力の『2013年版 SUNA』を観てきました。

鍛え抜かれた肉体と、螺旋階段のような迷宮世界。難解な話でしたが刺激的でした。やっぱり万有引力は良いです。

『SUNA』とは

1985年の初演以来、幾度となく上演されてきた万有引力の代表作。1986年エジンバラ国際芸術祭で最優秀演劇賞(フリンジ・ファースト賞)受賞。「距離」に関わる事物と人間の関係、役割をテーマに、観客と一緒に劇場空間に巨大な都市を持ち込もうとした作品。今回は郵便配達夫シュヴァルを中心に新解釈・再構成して2013年版として登場。

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感想

遠い昔の言葉のような摩訶不思議な台詞。ウテナでシーザー曲を初めて聞いたときのような驚きがありました。シーザーの言語が、舞台装置と肉体により演劇に再構成され、蜃気楼のごとく立ち現れたかのようでした。

幕が開けて、禍々しく奇怪な人物が登場すると、やはりテンションが上がります。4月に観たレミングが綺麗にまとまった商業演劇だったので、アングラ成分に飢えていたのですが一気に解消されました。躍動する肉体と、儚く美しい空間の対比。シーザーが演出した『レミング』はこういう舞台だったのかなと想像しながら観ていました。

物語の解釈

物語は難しかったです。

この作品は『J・A・シーザーの世界』によると、「サンテグジュペリの『夜間飛行』とフランスの郵便配達夫フェルディナン・シュバルの作った謎の建築物を題材に『人間の関係・その距離とは』を問うた作品」とのこと。

シュヴァル(1836-1924)とはフランスのアウトサイダーアートの芸術家で、1879年から33年かけて謎の建築物を造った人物。『夜間飛行』はサンテグジュペリの1931年の作品です。アンドレ・ブルトン『ナジャ』(1928)も大きなウェイトを占めているようでした。

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副題にある「わたしはあらんとしてあるもの」とは、旧約聖書出エジプト記)で神からモーゼに与えられる言葉。

配達に行くたびに石を拾ってきて、代わりに何かを忘れてしまう郵便配達夫カタツムリ。彼の設計図を狙うシナの建築家。記憶を代償に作られる理想宮と「人と人の距離」の物語。シュルレアリスムの自動手記のような考え方もベースにありそうです。

観客と俳優との交代劇や、電話の受話器を通じて語られる「電話演劇」ともいうべき実験的な要素もあり楽しかったです。アパートの冷蔵庫の扉から砂漠へ旅立つ男の話も、夏の奇妙譚のようでゾクゾクしました。

余韻がいつまでも残っていて、配られたパンフレットを読み直すたびに不思議な気分になる素敵な劇でした。

J・A・シーザーコンサート

パンフレットに記載された速報によると、2013年12月20日(金)19時から豊島公会堂で開催されるそうです!年末はシーザー充できそうですね。楽しみです。