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幾原邦彦作品等について語るブログ

ピングドラム関連映画を観る2013夏(南極物語)

サネトシと剣山が南極に行った理由

ピングドラムの謎の一つに「ピングフォースはなぜ南極に行ったのか?」というものがあります。その答えは本編では明かされませんでしたが、5月に発売された「Art Of Penguindrum」で、柴田勝紀さんが初期の設定について次のように語っています。

思い返すとよくわからなくなってくるんですよ。お父さんが南極観測に行った写真があるじゃないですか。あれはもともと「南極に不思議な生命体が隕石で落ちてきて、それを観測に行って、ペンギン帽子をみつける」とか、そんな話だったんです。結局それがなくなって、写真だけ残りました。(「Art Of Penguindrum」,p101)

Art of Penguindrum アート オブ ピングドラム

Art of Penguindrum アート オブ ピングドラム

なんと、高倉剣山と渡瀬眞悧は 落下した生命体を観測するため南極に行ったという設定があったのですね。

思えば、南極とピングドラムには多数の接点があります。主要キャラの名前が南極物語にちなんでつけられていること。多蕗とユリに縁の深い東京タワーにはタロとジロの像が設置されていたこと、ペンギンたちは南極から来たこと等々。

2周年のタイミングですので、遅ればせながら「南極物語」を視聴してみました。

なお、以下では、わかりやすさのため、登場人物を役名ではなく出演者名で書いてます。

南極物語とは

1983年公開 監督:蔵原惟繕

出演:高倉健 渡瀬恒彦 岡田英次 夏目雅子 荻野目慶子

南極大陸に残された兄弟犬タロとジロと越冬隊員が1年後に再会する実話を元に創作を交え、北極ロケを中心に南極ロケも実施し、撮影期間3年余をかけて描いた大作映画。キャッチコピーは、『どうして見捨てたのですか なぜ犬たちを連れて帰ってくれなかったのですか』( 南極物語 - Wikipedia )

南極物語 Blu-ray

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物語概要

1956年(昭和31年)南極地域観測隊第1次越冬隊が、南極観測船・宗谷に乗り南極大陸へ赴いた。1958年(昭和33年)2月、引継ぎ交代する予定だった宗谷は長期の悪天候の為に上陸・越冬を断念。撤退にあたり第一次越冬隊の樺太犬15頭は、無人の昭和基地に置き去りにせざるを得なくなった。極寒の地に餌もなく残された15頭の犬の運命、犬係だった二人の越冬隊員の苦悩。1年後、再開された第3次観測隊は、南極で兄弟犬タロとジロに再会する。

 

高倉健と渡瀬恒彦は、第二次隊が来るまでの一時的な処置のつもりで、犬15頭を鎖につないだまま基地を離れるのですが、天候の悪化により第二次隊は上陸しないことになります。それならば犬を連れに戻りたいと上層部に訴えるのですが、燃料不足を理由に却下されます。他に手はなかったとはいえ犬を見捨てて帰国したことは、二人の大きな傷になります。

一方で犬達は、人から見捨てられた後、鎖から脱出を試みます。しかし脱出できたのは半数。残りの半数は鎖につながれたまま極寒の地で命を落とします。

タロとジロは南極で生まれ育った兄弟であり、いつも一緒に行動します。この時も先に脱出したジロはタロが気になって戻ってきます。この兄弟のおもいやりは檻の中の冠葉と晶馬のようでもあります。その後、彼らは人間の姿を求めて地球の果てをさまようのですが、生き残った犬達も氷山からの落下等により、次々と姿を消していきます。シャチが襲来するシーンでは、リーダー犬のリキが、身をもってタロとジロを庇い命を落とします。

過酷な氷の世界の生存競争が描かれる一方、ロケによる雪山の美しい映像や、ペンギンの群れに心が和みます。

南極物語

南極物語

一方で、帰国した高倉健は「犬を見捨てて来た」ことで世論に非難されます。彼は勤めていた大学を辞め、樺太犬提供者に謝罪の旅にでます。リキを育てた荻野目慶子とその妹に責められれる高倉。「どうしてリキを捨ててきたの!どうして連れて帰ってこなかったの!リキを返して!」

渡瀬恒彦は、サネトシ先生のようなニヒルな役ではなく犬思いの研究者。恋人の夏目雅子の着物姿が美しい。地球の果てに旅立つ渡瀬と夏目雅子の愛が良いです。

ピングドラムとの関連

鎖につながれたまま捨てられた犬達は、檻の中の冠葉と晶馬に重なって見えました。脱走できた犬は選ばれた子であり、仲間のために犠牲になったリキは、川に沈んだカンパネルラのようでもあります。

帰ってこない人間を待ち続ける犬達は、親の帰りを待つ20話の陽毬のような、悲しみと深い絶望に溢れています。

ピングドラムという物語は、大人がいなくなった後に、残された子供たちが力を合わせて生きていくという現代の冒険談のようなところがあります。なぜピングドラムの主要キャラクタに「南極物語」にちなんだ名前が付けられているのか、疑問に思っていましたが、氷の世界で生きるタロ・ジロ(アンコというメス犬も途中までいます)の冒険は、ピングドラムのもうひとつの世界なのかもしれません。 

「9話氷の世界 」のクジラについて

もともとピングドラム第9話は助監督の山崎みつえさんによると、次のような話だったそうです。

―リセットということでは、当初、第9話はロボットが戦うお話だったそうで。

山崎:そうなんです。冠葉と晶馬が南極の氷の世界に行くと、自分たちと瓜二つの人たちが白と黒のクマロボットで戦っていて、最後は高倉兄弟の誰かが空飛ぶクジラに乗って歌をうたう、みたいな話だったんですけど(笑)脚本もかなりできていたのに、突然「これじゃダメだ!」ということで全く違う内容になりました。(公式完全ガイドブック,P145)

『輪るピングドラム』公式完全ガイドブック 生存戦略のすべて (一般書籍)

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なぜクジラが登場したのか疑問だったのですが、南極物語を見てわかった気がします。

高倉健渡瀬恒彦は南極で、犬たちとボツンヌーテンという地点へ旅をします。それは遭難しかけるなど危険な旅でしたが、その途中でクジラの死体を氷が押し上げて出来た神秘的な光景を目にします。

日本に戻った彼らは、犬達のことを考えながらその時の光景を思い出します。

高倉健「それ、何かに似てると思わないか。ボツンヌーテンに俺達行ったとき。覚えてないか?」

渡瀬恒彦「クジラの死体!そうでしょう。そっくりですな。ほんま似てますわ。」

高倉健「あの中に今頃どれか入ってないかな。」

渡瀬恒彦「そりゃジロでしょ。」

高倉健「ジロか。アンコやクマは入ってないか。」

渡瀬恒彦「いややっぱりリキかな」

高倉健「リキか。リキなら仲間連れて入ってるな。越智……あいつら生きてると思うか。」

あの神秘的なオブジェの中でなら、犬達も生きてるかもしれない……彼らはそう思ったのかもしれません。二人はこの後第3次越冬隊に参加し、日本を離れて、再び南極を目指します。

ピングドラム9話は当初「壁を抜けて奴が来た」というタイトルも考えられていたといいます(大阪ピングウェーブ)。東京から壁を抜けて南極へ。

南極に飛来した隕石、残された子供たち、そらを飛ぶクジラ。

ピングドラムは「銀河鉄道の夜」が世界観の底にあるといわれますが、「南極物語」も根底にあるのかもしれません。