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幾原邦彦作品等について語るブログ

三島由紀夫『夏子の冒険』

三島由紀夫の「夏子の冒険」を読んでみました。村上春樹の「羊をめぐる冒険」はこの作品のパロディ(あるいは書き換え)らしいと聞いたためです。

村上春樹の作品は輪るピングドラムにパロディあるいはオマージュとして登場しますが、特に「羊をめぐる冒険」の謎めいた雰囲気はピングドラムに通じるものがあると感じていました。そのためその元となる「夏子の冒険」とはいかなる作品だろうと気になったのです。

「夏子の冒険」とは、1951年に発表された、北海道を舞台にしたロマンティシズムあふれる冒険コメディです。熊を追いかける毅と夏子という二人の男女の逃避行ストーリー。

軽快な文体でスラスラと愉快に楽しめる話でした。ピングドラムノケモノと花嫁のファンのテイストに合うのではないでしょうか。以下では簡単に冒頭のあらすじと感想を書きます。

あらすじ

物語は、良家の子女である20才の娘・夏子が「修道院にはいる」と言い出すところから始まります。彼女は周囲の男が軽薄で空虚に見えてしまい、望まぬ男の妻になるくらいなら、いっそのこと神につかえて暮らそうと考えたのです。

当然家族は大反対しますが、夏子は言い出したら聞かない性格であり「修道院に入れないのであれば自殺する」と駄々をこね、実際に睡眠薬を飲んだりしたため、神経をすり減らした家族は、ついに根負けして送り出すことにします。

母と祖母と伯母が、涙ながらに北の大地まで送り届ける途中、連絡船のデッキで、彼女は猟銃を抱えた毅という青年に出会います。毅はかつて恋人を熊に殺されており、その熊に復讐するため北海道に行くところでした。

これまでどんな男にも魅力を感じなかった夏子ですが、命がけの冒険に挑む毅の情熱に惹かれます。そして翌朝彼女は毅の熊狩りに同行するべく、宿に置手紙を残し失踪したのでした。 

夏子の冒険 (角川文庫)

夏子の冒険 (角川文庫)

 

 感想

三島由紀夫の作とは思えないほど軽快な文体であり、登場人物たちがみんなマンガのような愛すべき性格をしています。思い込みが強くとっぴな行動をとる主人公の夏子と、彼女の言動に翻弄される女3人組(夏子の母、祖母、伯母)。彼らのドタバタ劇はまるで高橋留美子のラブコメのような雰囲気で、1951年の作とは思えない、もっと現代に近い作品のような印象を受けました。

羊をめぐる冒険」の元になった本と言われれば、そんな気もしてきますが、言われなければ気づかなかったかもしれません。

熊狩りの冒険に挑む毅と、その毅の情熱に特別な何かを見いだした夏子の関係は、少女革命ウテナでいうところの「ロマン」と「ロマンティック」の話*1を思い出しました。

「熊狩り」の話であるというのも注目すべき点です。ピングベア・ユリクマは「羆嵐」的な話になりそうだと噂されるため、「羆嵐」と同様に「熊追いもの」の一つとして読むのも楽しいと思います。  

*1:ウテナでは「ロマン」とは未踏の荒野に挑むような男性的な精神性を意味する。一方で「ロマンティック」とは受け身で王子様がやってくるのを待つような夢見る少女のようなスタンス。ウテナは女性でありながら両方をもった人物になると企画されていた。(季刊エス29号, 武蔵野美術No115他)