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幾原邦彦作品等について語るブログ

万有引力『リア王』観劇記 

万有引力の「リア王」を見てきました。

中世ブリテンを舞台にした、陰謀と狂気と愛の物語。大迫力で良かったです。

以前に「怪人フー・マンチュー」を観た後に、闇を歩くフーマンチュー博士の姿が、まぶたの裏から消えませんでしたが、今回の「リア王」もいつまでも余韻が残りました。万有引力のお芝居は、登場人物の存在感が劇場を出た後も残り続けるのです。

自分はウテナ20話の「若葉繁れる」で流れた「幻燈蝶蛾十六世紀」*1が昔から大好きだったため、同じ坪内逍遥シェイクスピア劇の「リア王」は、まさに求めていたものでした。合唱曲や剣による決闘シーンもあるため、ウテナの決闘シーンが好きな人にも合うと思います。

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感想

シェークスピア悲劇の演劇化でありながら、紛れもなく万有引力の舞台でした。歌舞伎の武者絵の中から出てきたような妖気ただよう人物達。坪内逍遥の古風なセリフと独特の身体表現が、中世のイギリスにマッチして異様な迫力がありました。

ストーリーについて

物語は救いのない悲劇です。ストーリーには二つの柱があって、一つは王権移譲により始まる老王と3人の姫の確執の物語。もう一つは庶子であるがゆえに不遇だった弟が、父と兄から伯爵の地位を奪う立身の物語。

リアは将来の遺産争いを防ぐために、生前に王国を3つにわけて3人の娘に与えようしますが、父への愛を口にしない末娘のコーデリアに腹を立てて、彼女にだけ領土を与えずにフランスに嫁にやってしまいます。

その後、王は二人の娘の館で交互に暮らそうと考えていたのですが、権力を失った老王は徐々に長女と次女から疎まれ、ついには発狂してしまいます。

事前に戯曲を読んだときは、リアは傲慢な王なのかと思っていたのですが、高田さんの演じるリアは、威厳もありながら部下思いの人情味のある人柄でした。公演終了後のトークによると、シーザーも高田さんのリアが好きで、他の役者さんでリア王をやるつもりはなかったし、今後もないとのことでした。

村田さんの演じるコーデリアは、悪女の姉と正反対の性格で、父を思い続ける健気な姫。この優しいコーデリアが過酷な運命に翻弄されることが、このリア王を恐るべき悲劇にしてるのでしょう。

悪役エドマンド

もう一人の重要人物であるエドマンドが、クールで魅力的な悪漢でした。配布されたパンフレットによると、彼は「赤と黒」のジュリアン・ソレルのイメージもあるとのこと。父と兄に奸計に掛ける才人であり、王の長女と次女を籠絡する色男でもあります。闇の娼婦との会話は、まるで悪霊に憑りつかれた人物が一人で会話しているようにも見え、抜群のカッコ良さがありました。

美術・衣装・メイク

登場人物は顔面を白塗りにして隈取のような墨も入っており、さらに黒いチューブやお布団のようなもの巻いていてる摩訶不思議な装い。一見すると中世イギリスの衣装とは思えないものですが、暗黒の闇に包まれると、異形な存在感を放ちます。

イギリスで公演した時はさぞかし驚かれたことでしょう。ポストトークで聞いたところによると、万有引力のこの公演を見て、当時のイギリスの新聞は、照明やセリフ等を解析した記事を一面に載せたそうです。その新聞ちょっと読んでみたい。

音楽

今回のリア王の曲は23年前のままで、新規の作曲はしていないとのこと。リア王の曲は、歌詞がリアの世界観と密接に関係しているため、他の芝居等には使わずこの演目だけの物となっているそうです。

「幻燈蝶蛾十六世紀」のような、シェークスピアの劇とシーザー曲の融合した世界を夢みていた自分にとっては、今回のリア王は楽曲も良く最高でした。

CDはまだあまり聞けていませんが、戯曲集を読み返しながら聞こうと思います。

*1:万有引力の94年の「ハムレット 死と蝋燭の明暗法」の曲。坪内逍遥の「ハムレット」が言葉が歌詞に使われている。