「THE MANGA」と「小説版」の関係。そして幾原監督の語るテーマ。
「ノケモノと花嫁 THE MANGA」3巻の発売を記念して、紹介記事を書きます。
「ノケモノと花嫁THE MANGA」とは
雑誌KERAにて連載中のロリータ・ハードボイルド漫画。原作:幾原邦彦×マンガ:中村明日美子のコラボレーションにより2007年9月号より連載開始。
「華麗なるカケオチ。禁断の愛。恋人たちの危険なストーリー。」
あらすじ
世羅ヒツジと羽熊塚イタルはカケオチをしている最中。
謎の組織「燃えるキリン」、ヒツジの父親、公安警察の三者が二人を追いかける。
二人は無事に逃走して結婚することができるのだろうか?
小説版との関係について
「THE MANGA」に先立って「小説版」がKERAの2006年3月号から2007年9月号まで連載されていました。小説版最終回『第十九話カケオチの朝』のラストシーンはTHE MANGAの第一話『RUNAWAY:1華麗なるカケオチ』の冒頭につながっています。
しかしTHE MANGAは小説版の完全な続編というわけではないように思います。
なぜならTHE MANGAは小説版のエピソードをもう一度初めから繰り返すように語られており、その際にキャラクターや設定が一部変更になるなどしているためです。
キャラクターの内面描写や過去のエピソードは小説版で深く語られてますので、もし興味のある方は読んでみてほしいです。
残念ながら小説版の刊行は予定されていないようなので、KERAのバックナンバーを入手するか図書館等で探すしかないようです。私は国会図書館で読みました。
小説版の連載には毎回中村明日美子先生の世羅ヒツジのイラストが掲載されました。これはゴスロリブランドの「BABY, THE STARS SHINE BRIGHT」とのコラボによるものです。単行本未収録ですがいつか画集等に収録してほしいです。
作品テーマ
幾原監督は連載開始時にKERAのインタビューで次のように語っています。
「まず最初に、どうしても発表してみたい物語があったんです。それは“なぜ僕たちはうまれてきたのか”ということと“戦争の時代に僕たちが失うものは何か”ということを題材にしたお話。」
「彼氏と彼女がどこからきて、どこへ向かっているのか?なぜ結婚式を挙げなくてはならないのか?」
「恐ろしい話になるよギリギリの場所で“愛”を描くから。」
(KERA2006年4月号より)
僕たちが生まれてきた理由、今の時代に喪失するもの、結婚と愛。
昨年放送された幾原監督のアニメ作品「輪るピングドラム」を視聴した方には共通するテーマを感じるのではないでしょうか。ピングドラムでは愛を与えられなかった子供達と、子供を透明な存在にする“こどもブロイラー”なる施設が登場しました。ノケモノでも子供と大人の対立が描かれます。
幾原監督は別のインタビューで次のようにも語っています。
「子供が大人にやり返す!『ノケモノと花嫁』は子供たちの戦争の話です。」
「以前から、子供が戦争する話を書きたいとおもっていました。これはメディアのせいもあると思うのですが、子供にとって不幸な事件が多いように感じていて。それに対して子供がやり返す、という話を書いてみようかと(笑)。」
(KERA2011年4月号より)
「ノケモノと花嫁」では大人に不幸にされた子供達が、仲間を集めて大人に戦争を挑みます。
子供たちの過去に何があったのか。国家権力に戦いを挑んだ結末はどうなるのか。そもそも大人への復讐を目的とする戦いの先に幸いはあるのか・・・。
一見するとティーン女性向けのファッション誌として重いテーマに思うかもしれません。しかしヒツジとイタルに関していえば、愛の話であり、傷と泥だらけになりながら、絶望の世界の涯で出会った運命の二人の話だと思います。
現在KERA本誌では、ヒツジとイタルの物語から離れて、イタルとギン(燃えるキリン創設者)の少年時代が語られています。ギンナジウムもののような雰囲気と、デミアン(ヘッセ)や不思議な少年(トウェイン)のようなテイストが溢れていて、この先の展開が目が離せません。
3巻ではこの新章が収録されています。KERA本誌を追いかけていない人や、まだ1・2巻を読んでないかたも、是非この機会に「ノケモノと花嫁THE MANGA」の世界に足を踏み入れてみてください。