演劇実験室◎万有引力「紙芝居活劇オペラ怪人フー・マンチュー」鮮烈な紅と黒。甦る黄禍の夢。
演劇実験室◎万有引力「紙芝居活劇オペラ怪人フー・マンチュー」のCD/DVDが発売されました。
少女革命ウテナが暗黒宝塚であるとするならば、怪人フーマンチューは暗黒探偵モノというべきでしょうか。
J・Aシーザーの見世物オペラの傑作です。
■愛しき悪の組織
思えば昔から自分は、正義のヒーロー物を見るときは悪の組織を応援する子供でした。「今週は良い怪人だったが作戦が悪かった。」等とダメ出しをしつつ、どれだけ叩きのめされても挫けず陰謀を企てる悪の軍団に拍手喝采を送っていました。
演劇実験室◎万有引力「怪人フー・マンチュー」はそんな幼年期の悪の組織への憧れがリアルで儚く残酷になった紙芝居活劇でした。
清王朝風の衣装と背景美術、戦前の江戸川乱歩の探偵小説のような世界観、「白人殺し」を繰り返す怪人とスコットランヤードの名探偵、J・Aシーザーの合唱曲、観劇後はその魔術的な魅力に虜になってしまいました。
「怪人フー・マンチュー」あらすじ
フー・マンチュー博士は白人への復讐と世界制服を狙う怪人です。
漢方医だった彼は、1900年の義和団事件の際に連合軍に妻子の命を奪われたことで、白人への復讐を誓う連続殺人鬼となります。
その手口は、巧妙かつ残忍。
もとより科学的知識に富んだ科学者のやることであるため、世間に発覚することもなかったのですが、やがて諜報機関の知るところとなり、ロンドン警視庁より名探偵ネーランド・スミスが派遣されてきます。
果たして二人の対決の行方は!?
■戦前の悪魔博士
「フー・マンチュー」はイギリスの作家サックス・ローマー(1883-1959)による連続小説で、90年の間にたびたび映画化、TV化が繰り返しされています。
日本では第二次大戦以前から「悪魔博士」の名前で出版されていたものの、その後は2004年に早川書房から復刊されるまで幻の作品となっていたようです。
■今回発売されたCD/DVDについて
【CD】99年版の音源をベースに2012年の本公演を再現した完全盤(全36曲80分)
【DVD】過去に発売された99年本公演のVHSをデジタルリマスター(故 若松孝二氏の製作・監修)
■この作品のテーマについて
この作品は「白人に復讐するアジア人」が敵役であり、wikipediaの関連項目にあるように、根底には黄禍論(白人の中で語られた黄色人種脅威論)があるようです。
しかし何度倒されても不死鳥のように甦る怪人は、アジア人の潜在的な底力を描写しているように思いました。
この作品は「身毒丸」「草迷宮」とならんで見世物オペラ3部作の一つといわれます。
文学的な身毒丸に比べて娯楽の要素が強いこの作品は、もしかするとウテナファン向けかもしれません。
特に好きなのは、「#5フー・マンチュー博士の毒煙草」と、「#20合唱曲フー・マンチューの死骸」。
「#5フー・マンチュー博士の毒煙草」はメインテーマであり、とにかくカッコイイ曲です。
「#20合唱曲フー・マンチューの死骸」は、怪人の劇的な復活シーンで流れます。
フーマンチューの死後、人形のようになっていた娘リヤが、ある夜目を覚ましてフー・マンチューの名を呼び続けると、月が二つに割れてあの懐かしい声が聞こえてくる…という幻想的なシーン。
アジアンクラックの紹介ページはこちら。
http://www.asian-crack.com/BIAC-009.html
クロスフェードデモを試聴することができます。
1999年の公演を収録したDVDも付属してます。画質はあまりよくありませんが、値段を考えるとお得だと思います。
購入はアジアンクラックの通販ページから。