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幾原邦彦作品等について語るブログ

演劇実験室◎万有引力◎番外公演 ヘヴィロック音楽劇「Alice in UnderGround」

万有引力の番外公演「アリスインアンダーグラウンド」を観劇して来ました。

大人になったアリスの夢の世界の旅。「不思議の国のアリス」と「ガリバー旅行記」の不思議な邂逅。落雷のように鳴り響くJ・Aシーザー曲。ゴシック・ロック風の衣装と美術セットも格好良かったです。

そして顔面白塗りのアリスたち。コミカルなシーンと、魔術的なシーンが織り交ぜられ、万有引力が演じるとアリスはこうなるという期待通りの作品でした。

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ヘヴィロック音楽劇「Alice in UnderGround」

◎2013.4.4thu~4.7sun ◎会場 八幡山ワーサルシアター

◎着想 Alice in Quantumland / RobertGilmore◎ガリバー旅行記 / ジョナサン・スウィフト

◎音楽/合唱曲提供 J・A・シーザー

◎作・構成・演出・音楽 飛永聖  ◎台本協力 五十嵐もつお

◎出演 村田弘美 / L・T・ビンチ / 髙橋優太 / 森祐介 / 曽田明宏 / 

賀来匡識 / ラキアニカ・ラ・キア / ジュリアス・レ・チーバー / 井内俊一

万有引力の公演は昨年7月の「怪人フー・マンチュー」以来です。久しぶりだったため2日連続で通ってしまいました。村田弘美さんと井内俊一さんはオルガンヴィトーや青蛾館で拝見していましたが、やはり万有引力では雰囲気が違う気がします。

1度目は大音響と雰囲気に圧倒されてしまい、話が細部までわからなかったので、帰宅後に「鏡の国のアリス」や「ガリバー漂流記」を読んで知識を補完しました。そのため2度目はよくわかりました。

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会場の様子

会場は京王線八幡山のワーサルシアター。 入場待ちのエントランスホールは、テーマ曲が流れ、アリスと思われる人形・動物の骨・時計・紅茶セット等が置かれてました。横では不思議の国の住人たちがトランプゲームをしており、既に劇の一部が始まっています。

開場して中に入ると、場内は靄がかかった暗闇。舞台ではソファに腰掛けて謎の男がギターを弾いてます。やがてテルミンを演奏する男も加わり、徐々に雰囲気が変わり始めます。やがて轟音のノイズが暗闇の空間を埋め尽くし、客席後方から現れたアリスが閃光に吸い込まれるように歩いてゆき劇が始まりました。

あらすじ

物語は次のようなものです。

大人になったアリスは、子供のころにチャールズ・ドジソンが話してくれた不思議な話の夢を見ます。「あーあ、あの頃に戻りたいな。せめて夢の中だけでも」そう願うアリスに、執事は見たい夢を見る方法(=明晰夢)があると教えます。執事にやり方を習ったアリスは、望みどおりの夢をみるため意識を集中し、夢と現実の間に入っていきます。そこで彼女は懐かしの帽子屋、チェシャー猫、三月ウサギ、ヤマネに再会します。しかしなぜかセリフの順番が昔と少し違います。夢の世界では、過去と現在と未来が並行して同時に存在しており、以前のアリスが訪れたときとは何かが少し変化しているようです。

一方、ガリバーを自称する謎の老人が登場します。彼はラピュータからイギリスに帰る予定でしたが、途中魔法使いの国に立ち寄り、人形に命を与える魔法を習います。

二つの物語が幕ごとに交互に語られやがて時空をこえて錯綜していきます。

 

※(ここから下は物語のネタバレが多めですので注意してください)

 

摩訶不思議シュールリアルな世界

個人の話で恐縮ですが、自分はむかしからシュールレアリストの系譜に連なる作家が好きでした。今でも好きなのは寺山修司デヴィッド・リンチ幾原邦彦などです。文学作品も理屈で作られたお話より、作家の心の内的必然性に基づいて自在に物語が展開し、不合理であっても、仰天の結末に至るようなものに魅力を感じます。(デタラメな話が好きという意味ではなく、作家が自分の無意識と向き合って真実を切り取ったような作品が好きだということです。このような作品は結果として話の整合性がとれなくなるものが多いのです。)

当然「不思議の国のアリス」は昔から好きでした。

アリグラの場合、漂流者ガリバーはラピュータにいたと思ったら、次の幕では亀になって竜宮城を目指し、玉手箱を開けて目覚めたときには時空を超えた別の場所にいます。非現実的なほどやすやすと地理的・時間的な距離を飛び越えます。まるで一人の男の夢の中の出来事のようです。「不思議の国のガリバー」と言ってもいいかもしれません。彼の冒険には童心に帰ったようにワクワクしてみてました。(ところで彼の正体は誰なのでしょうか?)

物語の構成について

この劇はアリスとガリバーのそれぞれの物語が、交互に演じられる構成になっています。場所も時間も異なる二つの物語が平行し、同時に進行します。アリスの夢の世界の歯車が少しずつ噛み合わなく過程が面白かったです。

アリスは自分の夢を思いのままに操ろうとしていたわけですが、次第に自分の夢が自分のものでなくなっていくことに気づきます。どうやら彼女は誰かの夢に見られてしまったのです。原作「鏡の国のアリス」の「第12章 夢を見たのはどっち?」という章題と同じテーマです。

竜宮城で乙姫様にもらった玉手箱、人形に命を吹き込む魔法、覗き込んではいけない手鏡は、夢を越境し現実へ帰還するためのアイテムなのだと思います。

原作「鏡の国のアリス」の序詩朗読や、アリスが子猫のスノードロップと会話するシーン。これまでとくに意識したことがなかったのですが、アリグラでは幼年時代を情緒的に振り返るセンチメンタルなシーンとして描かれており、感動してしまいました。

ウテナ決闘曲について 

ウテナ曲がかかる場面では、左壁のスクリーンに静止画が映写されました。「架空過去型《禁厭》まじない」では、テニエル作の挿絵とリデル姉妹の写真。「寓意・寓話・寓エスト」ではアリスの世界を描いた抽象画。歌詞の内容とストーリがマッチしていてウテナファンとして高鳴りました。

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終わりに

150年前の児童文学である「不思議の国のアリス」はいまなお世界中で愛され、その人気はますます熱を帯びてきているようです。今回の万有引力の公演は、量子論ガリバー旅行記、そしてチャールズ・ドジソンとアリス・リデルについて描いている点がポイントだと思います。来月の「SUNA」も楽しみです。