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幾原邦彦作品等について語るブログ

アニメスタイルの『少女革命ウテナ』イベント第2弾

アニメ様のウテナイベント第2弾に行ってきました。8月14日のイベントの続編で、小黒祐一郎さんと錦織博さんが『少女革命ウテナ』の思い出話を語るというもの。ほぼ3時間濃いお話を聞くことができました。

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第76回アニメスタイルイベント 

少女革命ウテナ』をめぐるアニメ雑誌編集者の冒険[番外編]

2013年10月29日(火)開演19時30分

会場:新宿ロフトプラスワン

出演 小黒祐一郎、錦織博

錦織さんがウテナに参加した経緯

錦織さんは日本アニメーションに居たころから、きんぎょ注意報(1991年)等での幾原監督の仕事ぶりに注目していたそうです。そして友人のアニメーターさんと一緒に、小黒さんに連れられてビーパパススタジオを訪問し、幾原監督と初めて対面します。きんぎょ注意報が好きだったと伝えると、幾原監督はとても喜び「一緒にウテナやろう」と意気投合。ウテナの制作に入っていったとのことでした。

錦織さん絵コンテ担当回

5話  光さす庭・フィナーレ

11話 優雅に冷酷・その花を摘む者(金子伸吾さんと共同)

16話 幸せのカウベル

27話 七実の卵

31話 彼女の悲劇

36話 そして夜の扉が開く(高橋亨さんと共同)

錦織さんが担当したのは、最初が5話の薫幹の回で、その後は七実の話(16,27,31)が多くなります。その切っ掛けは、カンガルーが出てみんなが喜んでた時に、「カンガルーが出ただけで良いのか…」と疑問を呈したところ、「それじゃお前やれ」ということになり、幸せのカウベル(16話)をやるようになったとのこと。

各話の絵コンテ・表現について

OHPでフィルムコミックスを上映しての、錦織さんの表現にまつわる話。

まずは5話の薫幹が決闘ゲームの中止と生徒会の解散を訴えるシーン。幹はアンシーへの恋心から、花嫁を決闘で奪い合うのはおかしいと言いますが、この動議は冬芽と樹璃にあえなく却下されます。この間に、イスの上に置かれていたリンゴが、いつの間にか6つのカットされたウサギに変化するという謎の現象が起きます。

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この場面は、その後のウテナの独特な表現に影響を与えたと言われます。

錦織さんによると、幾原監督から画面に異和感を感じさせたいという希望があったとのこと。椅子は一人芝居の演劇のイメージからきており、結果として画面に写っていない第三者がまるでそこにいるかのような不思議な効果が出たとのことです。 

「ウサギ」についての明確な説明は特に無かったのですが、察するにあのウサギは生徒会メンバー6人なのでしょう。そして第三者とは世界の果てあるいは幹のストップウォッチを操っている者と同じものを指してるのだと思います。

小黒さんによると、ウテナでは打ち合わせの初期から、そのエピソードをみただけで意味がわからないが、5話分くらい見るとその文脈がわかるというような、少し難解ともいえる仕掛けを入れていこうという話をしていたとのことでした。

そのほか、音楽室での冬芽の胸がはだけるシーンや、薫幹の回想シーンで一輪だけ回す表現の話など。 

このあたりのイクニアニメの映像記号的な話は個人的に好きなので、錦織さんから直接お話しが聞けて良かったです。

小黒さんのウテナへの思い

小黒さんはセーラームーンの頃から、アニメージュに毎月幾原監督の記事が掲載されるように働きかけていたと言います。そしてプロのカメラマンによる撮影、ファッションブランド協力の衣装、プロのメイクさんによるメイクなどにより、豪華な紙面を作っていきました。それは監督日記、ウテナの本編の記事へと引き継がれていきます。

ウテナ記事の傑作の一つが、さいとうちほ先生と幾原監督が高級外車(暁生カー)に乗った美麗なページです。そのタイトルはずばり『バーチャルスター発生学』。またイロイロという名前の、監督がスタジオで飼っているアライグマが、動物ならではの視点でさまざまな制作上のアドバイスをするという回(『寓意・寓話・寓エスト』)もありました。

このイロイロが実はペットモデルだったことは、ウテナオールナイトの際に幾原監督から明かされましたが、上記の暁生カーも、撮影の前にオーナーの車庫からみんなで手押しで移動させた等の苦労があったといいます。カッコいい写真の裏ではそのような舞台裏があったわけですね。ウテナには、虚構の発生装置として暁生のプラネタリウムが登場しますが、この暁生カーの記事は、作り手自身がスターを演じ、さらに『バーチャルスター発生学』というタイトルが付けられてるところも含めて、ウテナらしい記事であり、小黒さんもその完成度には満足のいくものだったようです。

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今なお語り継がれる伝説のバーチャル・スターのイロイロ。

幾原監督の目的遂行能力の高さについて

小黒さんは、ウテナが今の形で放送できたのは、幾原監督の目的追行能力の高さが大きいと言います。幾原監督は「あの手がだめなら、この手。それでもダメならさらなる手…」と、常に様々な道を探ってゴールに向かうとする人で、例えばアンシーの肌の色や33話の例のシーンなど、放送されるためには超えなくてはならないハードルがあった時に、それらをクリアできたのは、幾原監督の能力によるところが大きいとのことです。

大きい会社がバックにあったわけでもなく、最年長で33才位という若い集団が、あれだけの作品が作れたのはすごいことであり、あのメンバーでもう1作くらい作品をやりたかったと仰っていました。 

ウテナの世界観設定(塔の上を目指すディオス)について

小黒さんによると、ウテナの初期設定として、34話のディオスとアンシーのような、あの世界の前史にあたる話があったそうです。塔の上を目指すディオスの物語で、SF的な要素もあったそうです。

この設定は公開されていないとのことですが、榎戸さんの『少女革命ウテナ脚本集(下)』に収録されている『ディオス・プレストーリー』と近いような気がします。少し冒頭を引用すると次のようなものです。

『ディオス・プレストーリー』

見知らぬ都市で。

不幸な境遇にあって、孤独な生活を強いられているひとりの少女がいた。その少女を薄汚れた街の底から救ってくれたのは、やさしく、力強く、美しいディオスという若者だった。

以後、少女は、ディオスに“妹”として育てられることになる。

「これから僕たちふたりは、ずっと一緒に、助け合って生きていこう」

少女にとって、ディオスは、世界のすべてとなった。

そしてディオスは“革命の塔”の不可能と言われていた最上階、禁断の聖域を目指します。しかしそこに入るためには「理想を追う心」を捨てなければなりません。そして「理想を追う心」を捨て、世界の王となった彼は全くの別人となってしまい…というお話。ウテナ本編の二つの薔薇の物語や、暁生が決闘ゲームする理由等を考えるヒントにもなる話です。

ただしこのディオス・プレストーリーには、SF的な要素は出てこないので、もしかすると小黒さんが仰っていたのは、ウテナオールナイトで幾原監督により語られた『宇宙の果てで眠らされた花嫁を救いにいく王子様』のような話なのかもしれません。

まとめ

今回(そして前回)のアニメ様のウテナイベントは、ウテナを作ったビーパパススタジオの人々の青春時代とその舞台裏が垣間見えるようなイベントでした。ウテナには今では高名なアニメスタッフの方が数多く参加されていたので、一種のトキワ荘物語のような気分で聞いていたところもあります。

小黒さんによるとウテナイベントは しばらく封印するとのことで、次は5年後くらいになるだろうとのことです。5年というとだいぶ期間が空きますが、また次の機会が楽しみです。