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幾原邦彦作品等について語るブログ

寺山修司×松本雄吉 『レミングー世界の涯まで連れてってー』

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パルコ劇場で開幕した『レミングー世界の涯まで連れてってー』を観劇してきました。松本雄吉の「ヂャンヂャン☆オペラ」と寺山修司の言語が融合した超現実的な音楽劇。前から観たいと思っていたので体感できて良かったです。世界の果てを観てきました。

寺山修司没後30年/パルコ劇場40周年記念公演

レミングー世界の涯まで連れてってー

公演日程 2013年4月21日 (日) ~2013年5月16日 (木)

作 寺山修司

演出 松本雄吉(維新派

出演 八嶋智人 片桐仁 常盤貴子 松重豊 花井京乃助 廻 飛呂男 浅野彰一 柳内佑介 酒井和哉 鹿内大嗣 金子仁司 KEKE 高木 健 金子紗里  あやちクローデル 髙安智実 髙田郁恵 今村沙緒里 笹野鈴々音 万里紗

 

レミングとは

演劇実験室◎天井桟敷の代表作。1979年5月晴海の東京国際貿易センターで初演。1982年12月に新宿・紀伊國屋ホールで『壁抜け男』として再演。演劇実験室◎万有引力でも1992年と2000年にも上演された。

寺山修司の解題によるとその主題は「壁の消失によってあばかれる内面の神話の虚構性の検証」。レミングとは集団自殺するといわれた旅ネズミであり、歴史的にはええじゃないか(天変地異がおきる一年前に必ず打物を片手に道を踊り歩く人々)との類似性で語られた。この作品の狙いは壁を消失して方向を失った大家の群れを描くことにあるといいます。

少女革命ウテナの「世界の果て」はこの作品から取られているとのこと(幾原邦彦×高取英 対談)。

私的レミング体験

天井桟敷の再演の映像を観たり、市販されてる戯曲集を読んでいました。その不思議な世界に魅了されましたが、他の寺山演劇と比べると圧倒的に難解で、わかったようでわからないモヤモヤが残る作品でした。

メタフィクション的に交錯する夢の話は面白いのですが、物語らしい物語はなく、わかりやすいドラマやカタルシスも排除されているようです。「壁の消失」という状況に置かれた人々の困惑が描かれるのですが、あまりに象徴的な場面が多いのです。登場人物のセリフや行動は比喩であり置き換えであると解釈するしかなく、その寓意を読み解く必要もあります。

「都市とはそこに住む人々の内面が外在化したものである」「壁とは個人の内面を隔てるもの」などと読んで解ったような気分にはなるのですが、生で観劇しないとダメなんだろうなと思っていました。実際に観て経験すべき作品であり、コンセプトだけを理解しても本当の姿はわからない作品なのだろうと思っていました。そのため今回の公演は発表されたころから楽しみにしてました。

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今回の公演の感想

 

 

(以下ネタバレ含みます) 

 

 

あっという間の2時間でした。

維新派の舞台は初めてでしたが、噂に聞いていた通り、変拍子のリズムとミニマルミュージック的なサウンドが気持ちよかったです。バリ島のケチャのような発話が、レミングの無機質なセリフに実によくあっていました。天井桟敷版よりもさらに情緒的な部分が欠落して金属的でメカニカルな舞台になっている印象を受けました。規則的に同期して行進する群衆(脚本でいうこところの五反田の他人同士)は、他人に無関心な都市住民のようであり、オートメーション化された都市のようでもあります。

話の筋書きは概ね台本に忠実だったと思います。新解釈が試みられているため、違うところもありますが、セリフの多くは天井桟敷版を踏襲しているようです。畳の下で飼われる母親、王と痛のコック見習いもイメージ通りでした。ただ影山影子は違和感がありました。

かつて新高恵子さんが演じたのは、銀幕のスターだった過去の幻想に取り憑かれた狂気の女でした。上海異人娼館やボクサーとの連続性のある凄みのある役です。しかし今回の常磐貴子さんはアイドル女優のようであり深みや狂気は感じませんでした。

壁の修理に来た区役所員が、仮の壁として残していくジャン=ポール・サルトルの文庫本『壁』。30年前の映像の中の観客と同様に客席から笑い声が起きていました。「東急フライヤーズ」など昭和のキーワードが違和感なく受容されているようでした。

舞台セットについては、最小限のものに絞って設置されていたように思います。おそらく装飾を排してシンプルな空間を作る意図があったのだと思います。過去の維新派の作品VTRに出てくるような巨大セットがなかったため少し残念でした。でもパルコ劇場の大きさを考えると当然なのかもしれません。いずれ野外劇場での維新派の舞台も観てみたいです。

全体としての感想

先にも書きましたが「ヂャンヂャン☆オペラ」のリズムが心地よかったです。音響にも圧倒されました。個人的にはこれまでのモヤモヤが晴れて、自分なりのレミング像がつかめたことが収穫でした。

寺山がかつて描いたのは壁が消失した混乱のなかで人々が世界の涯に去っていく物語でした。寺山の演劇にはその空間を隔離された安全な劇場の中から外部の都市に拡大する試みがあったと思うのですが、2013年版のレミングでは劇的状況を外部から見つめる少年が描かれました。屋根裏の散歩者のように世界全体を都市として見つめる少年。「一番最後でもいいからさ 世界の涯てまで連れてって」あの少年は世界の涯てから世界を見つめる寺山を表現していたのかもしれません。

天井桟敷の最終公演であり寺山演劇の集大成であるこの作品は、世界と個人の内面の因果を超えた繋がりを描いた壮大な作品だったのだと思います。

今回の公演はアングラっぽさは無く、現在におけるスタイリッシュな商業演劇を目指したようでした。天井桟敷万有引力の公演を見た人の比較感想が知りたいです。