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幾原邦彦作品等について語るブログ

観客を演じる観客になる不可思議な体験◎万有引力『観客席』

万有引力「観客席」を観てきました。 噂には聞いていましたが、聞きしに勝るに抱腹絶倒の痛快劇!とても面白かったです。

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 演劇における構成要素を検証する試み。「観客」とは?「劇場」とは?「俳優」とは?この問いかけに言語(つまりセリフ)を重ねて検証していくのが主題となるようです。 しかしこの問答がとてもおかしいのです。思考過程は正しいのに、なぜか結論は可笑しさと危うさに満ちているのです。

例えば仮に「劇場」とは「壁に囲まれた箱型の空間で、トイレとスプリンクラーの設置が消防法で義務付けられている」と定義します。それでは1m四方の箱の中に、簡易トイレと小型消火器を置いて、新宿駅で酔っ払って寝ていた男をさらってきて、箱の中に閉じ込めて夢を見させたら、それは「劇場」になるでしょうか?そして男は果たして「観客」なのでしょうか?

いうまでもなくこれは「演劇」というよりは「事件」であり、男は「観客」というより「拉致被害者」であるわけです。今のは説明のための例ですが、ロジックとしてはこのような形で、脚本のある「演劇」と現実の「事件」との違いを演劇の中で検証していく。しかしインプットされる条件は正しいのに、出てくる結論がおかしい。

「それは違う!」などと突っ込みを入れながら、面白くて観ていたのですが、拍手をしたり笑ったりしているうちに、いつのまにか自分が劇の一部になっていることに気が付きました。

僕はシアタートラムでの「観客」という役割を終え、自宅でこの文章を書いているわけですが、心から日常の愛おしさのようなものをかみしめています。もしかしたら自分も舞台の上で役を演じ、そのまま虚構の中の登場人物となって、芝居の世界に消えてしまっていた可能性もあるわけですから。

「観客席」は笑って楽しむエンタメ劇ですが、白日夢を見たようような摩訶不思議さがあります。 暗闇の中を疾走する音響効果などには驚きました。バーチャルリアリティの機器装置や、テーマパークのようでもあります。前もってある程度の知識は持っていたのですが、予想を超える奇妙な体験でした。こんな気分になることはそうそうないと思います。

とても面白いですので、まだ未見のかたはぜひ!

演劇実験室◎万有引力◎第58回本公演「観客席」
2014年2月28日(金)~2014年3月9日(日) 会場◎シアタートラム
作/寺山修司
演出・音楽・美術・脚本/J・A・シーザー
機械設計/小竹信節
共同演出・脚本/高田恵篤
http://www.banyu-inryoku.net/

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園子温監督×高田恵篤さんポストトーク

この日は終演後に、映画監督の園子温監督と高田恵篤さんのポストトークがありました。シーザーさんも登場することが予告されていたのですが、事情により出れなくなってしまったとのこと。

園監督は最近、寺山さんの特集本やETV特集NHK)等で寺山さんに言及されているのをよくお見かけします。この日も、観たばかりの「観客席」の感想や、寺山作品について語っていただけました。

園監督は17、8才の時に「家出のすすめ」を読んで家出を決行、渋谷の天井桟敷館のカフェでコーヒーを飲んでいたところ、寺山さんがいたので料金を支払わずに店を出たら、寺山さんに「ありがとうございました」と声を掛けられたといいます。

自らの作品でも寺山さんの影響は大きく、かつては反発したくなったこともあったものの、現在では影響を脱することはムリだと半ばあきらめているとのこと。今後は演劇も挑戦していきたいとのことで、寺山さんのようにマルチに多方面で活動をしていきたいとのことでした。

次なる演目は「リア王

次は5月にリア王です。公演が続いていて劇団のみなさんは大変でしょうが、ファンとしてはとても嬉しいところです。会場で先行発売されていたチケットを早速購入しました。どんなお芝居なんですかね。楽しみです。

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